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福島地方裁判所 昭和56年(行ウ)3号 判決 1983年1月31日

原告 福島県日産自動車協同組合

被告 郡山市長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が昭和五五年八月二九日付でなした別紙不動産目録記載の土地についての地方税法六〇三条の二第一項所定の特別土地保有税免除申請に対し、被告が昭和五五年一〇月七日付第五四号をもつてなした免除否認の決定はこれを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、中小企業等協同組合法に基づき福島県下の日産系自動車デイーラー五社が組合員となつて設立した事業協同組合である。

2  原告は、全日産系の自動車部品を販売するための倉庫、事務所、油庫を建築する目的で、昭和五五年五月一三日、訴外郡山市農業協同組合及び同安斎平吉から別紙記載の土地(合計面積九五三〇平方メートル、以下本件土地という。)を代金合計金二億八九二六万六九〇〇円で取得した。

3  ところで、地方税法五八五条以下の規定によると、原告は本件土地の取得につき金八〇三万〇一〇〇円の特別土地保有税を納付する義務があるが、他方、同法六〇三条の二の規定によると右納税義務は免除されるべきものなので、原告は法定納期限(昭和五五年八月三一日)の前である昭和五五年八月二九日、被告に対し右納税義務の免除申請をなした。

4  これに対し、被告は昭和五五年一〇月七日付第五四号をもつて右免除申請を否認したので、原告は同年一一月一〇日、被告に対し右免除否認決定についての異議申し立てを行つた。

5  被告は、昭和五六年一月二三日、右異議申し立てを棄却する旨の決定をなし、同月二五日、原告にこれを通知した。

6  しかしながら、次の理由で右4の免除否認決定は違法であり、取り消しを免れえない。

(一) 地方税法六〇三条の二に基づいて納税義務が免除されるためには、まず当該土地が恒久的な利用に供される建物又は構築物の敷地の用に供するものでなければならないとされているが(昭和五三年四月一日自治固第三八号自治省税務局長通達第二、一、(一)、<1>)、本件土地上に建築された事務所、倉庫(以下、本件建物という。)は鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺陸屋根二階建のものであつて床面積は一階が二八八四・四二平方メートル、二階が二二一二・七六平方メートルに及んでおり恒久性の要件を満たしている。

(二) 次に、通達によれば納税義務が免除されるためには当該土地の利用が当該市町村にかかる土地利用基本計画、都市計画その他の土地利用に関する計画に照らし、当該土地を含む周辺の地域における計画的な土地利用に適合するものでなければならないとされているが(右通達第二、一、(二))、原告は本件土地につき国土利用計画法二三条所定の届出、都市計画法二九条所定の開発行為の許可、農地法五条所定の届出、建築基準法六条所定の建築確認等を得たうえで本件建物を建築したものであり、土地利用計画適合性の要件をも満たしている。

(三) 被告は地方税法六〇三条の二第五項により準用される同法五八六条四項所定の基準日である昭和五五年七月一日現在においては本件土地につき利用がなされていなかつたとして免除否認決定を行つたものであるが、これは昭和五三年の地方税法の改正により設けられた同法六〇三条の二の趣旨に照らし違法である。

(1) そもそも特別土地保有税の制度は昭和四四年の第一次土地税制により実施された個人の保有土地に係る長期譲渡所得の分離軽課及び短期譲渡所得の分離重課制度によつて相当放出された土地が法人の投機の対象となり最終需要に結びつかなかつたという事情に鑑み、投機的な土地取得の抑制と投機的に保有されている土地の放出を促す目的で昭和四八年の第二次土地税制により国税における土地譲渡益重課制度とともに創設されたものである。

(2) しかし最近は土地需要も当時と比べ鎮静化の傾向にあり、地価も比較的安定的に推移していること、国土利用計画法の施行等土地取引、土地利用規制に関する諸制度の整備も進められてきていること等に照らし特別土地保有税のあり方に検討を加え、明らかに投機目的のために保有されていると認められる土地や明確な特定の利用目的を有しないと認められる土地については従前通り課税を行うが最終的な需要に供される土地についてはもはや税負担を求めないこととするために地方税法六〇三条の二が設けられたのである。

(3) 原告は別紙土地取得並びに建物建築経過表記載の経過で本件土地を購入し本件建物を建築したものであつて、単に昭和五五年七月一日の時点における現況のみによつて判断するのでなく当該基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況を勘案して判断するならば(前記通達第二、五)、原告が明確な利用目的を持つて本件土地を取得し最終的な需要に供したことは優に認定できる。

(4) 特別土地保有税の課税対象となるような相当規模の土地に建築を行う場合には右(二)の諸手続を要し、しかも恒久的な建物の建築自体にも半年ないし一年の期間を要することを考えれば基準日の直後に土地を取得したとしてもその後六か月弱の間に建物を完成させることはそもそも不可能に近いというべきである。

従つて機械的に基準日の現況によつて最終的な需要に供される土地であるか否かを判定することは違法であるといわざるを得ない。

原告が右(二)の諸手続を経由したことにより、原告が事務所、倉庫を建築することを最終的な目的として本件土地を取得したことは明らかというべきで、かつ別表記載のとおり昭和五五年一二月には本件建物が完成しているのであるから、原告の右免除申請は容認されるべきである。

(5) また等しく最終的な需要に供する目的で土地を取得した者相互間において一気呵成に建築を行つたか否かにより税負担の有無につき差異を生ずるということも公平の見地からして好ましくない。

よつて、原告は被告に対し、原告が昭和五五年八月二九日付でなした本件土地についての地方税法六〇三条の二第一項所定の特別土地保有税の免除申請に対し被告が昭和五五年一〇月七日付第五四号をもつてなした免除否認の決定の取り消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は知らない。

2  同2の事実中、原告が、昭和五五年五月一三日、訴外郡山市農業協同組合及び同安斎平吉から本件土地を合計金二億八九二六万六九〇〇円で取得したことは認める。

3  同3の事実中、原告が法定納期限の前である昭和五五年八月二九日、被告に対し納税義務の免除申請をなしたことは認めるが、その余の主張は争う。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実も認める。

6  同6(一)の事実中、原告が現在では本件土地上に事務所、倉庫を建築したことは認めるが、昭和五五年七月一日の時点では建物は存在していなかつたものであり、その余の主張は争う。同(二)の事実、主張は、すべて争う、同(三)前文の事実中、被告が地方税法六〇三条の二第五項により準用される同法五八六条四項所定の基準日である昭和五五年七月一日現在においては、本件土地につき利用がなされていなかつたとして免除否認決定を行つたことは認めるが、その余の主張は争う、同(三)の(1)ないし(5)の主張はすべて争う。

三  被告の主張

1  昭和五三年法律第九号による地方税の一部を改正する法律により、特別土地保有税は恒久的な建物等の用に供する土地に係る納税義務の免除制度が創設され、市町村は建物、構築物その他の一定の施設で恒久的な利用に供するものとして定められた基準に適合するものの用に供する土地で当該市町村に係る土地利用基本計画、都市計画その他土地利用に関する計画に照らし、その地域における計画的な土地利用に適合することについて市町村長が特別土地保有税審議会の議を経て認定したものについては当該土地に係る特別土地保有税の徴収金に係る納税義務を免除するものとされている(同法六〇三条の二)。

2  右改正は、ある程度未利用地税的な考え方を取り入れ、外形的に利用判定が可能な恒久的建物、構築物の敷地及び一定の恒久的な施設の用に供される土地に限つて納税義務を免除することとしたものである。

3  免除対象となる土地の要件

(一) 事務所、店輔その他の建物又は構築物でその構造、利用状況等が恒久的な利用に供される建物又は構築物に係る基準に適合するものの敷地の用に供する土地であること。

右の場合、恒久的な利用に関する基準は政令で定めるとし、その概要は建物又は構築物が仮設のものでなく、用途に即して相当長期にわたつて使用されるものであること等とされている。

(二) 昭和五三年四月一日付自治固第三八号各道府県総務部長、東京都総務、主税局長あて自治省税務局長通達「恒久的建物、施設等の用に供する土地に係る特別土地保有税納税義務の免除の取扱いについて」によると

(1) 建物等に係る恒久性の要件の建物及び構築物の意義の「建物」とは不動産登記法における建物と同義であり、屋根及び周壁又はこれに類するものを有し土地に定着した建造物をいうものである。

(2) 恒久的な利用に供される建物又は構築物に係る基準は構造及び工法からみて仮設のものでないこと、仮設のものであるか否かの判定は基礎工事の状況、屋根、周壁、間仕切等の主要構造部の使用資材及び施工の態様、その他施工状況を総合的に勘案して行うべきである。

(3) 免除認定の基準日

納税義務の免除の認定の基準日は土地の保有に対して課する特別土地保有税(保有分)にあつては一月一日、土地の取得に対して課する特別土地保有税(取得分)にあつては一月一日又は七月一日とされているが(同法六〇三条の二第五項、五八六条四項)、当該基準日現在の一時的な現況のみによつて免除の認定をすべきものではなく、当該基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況を勘案して行うべきものである。

したがつて、建築途中のものであつても既に棟上げを終え、建物としての外観を示す程度に至つていると認められる場合及び工事の施行が相当程度進捗していると認められる場合は免除対象に含めて取り扱うことができる。

また、建築は完了しているが未だ利用に供されていない場合についても同様に取り扱うものである。

4  ところで、原告所有の本件土地について免除認定の基準日である昭和五五年七月一日の現況は恒久的な利用に供される建物は全く存していなかつたもので、この点についての原告が主張する別表によつても、昭和五五年七月一日には建築確認申請すらしていないし、建築確認通知があつたのは同年八月二九日であり、右同日基礎工事杭打に着手したにすぎないのである。

5  原告は昭和五五年八月二九日付をもつて特別土地保有税の納税義務の免除認定申請をしたが、被告は事前に審議の対象となる物件であることが判明していたので申請前の同月二七日に現地調査をしたところ、本件土地上に何ら具体的な建物が現存していなかつた。

6  被告は、昭和五五年九月二二日原告からの納税義務免除について郡山市特別土地保有税審議会へ諮問したところ、右審議会は、同日現地調査をして右時点の現況を確認したうえ慎重に審議し、また、被告は、現地で工事現場監督人である訴外伊野光宏から、原告が整地のための工事に着工したのは昭和五五年七月一四日ころであり、基準日である同月一日当時の現況は前所有者と同様田であつたことを聴取し、更に、被告は、昭和五五年九月二六日に再度現地調査したところ、原告は右時点においても建物の基礎工事にさえ着工していなかつた。

7  また、被告は担当職員をして昭和五五年九月一七日自治省税務局固定資産税課に出張させて原告の納税義務免除についての見解をたずね法解釈について慎重な配慮をしたうえで、原告の免除申請を否認したものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2の事実は争う。

3  同3の法令及び通達が存することは認める。しかしながら、地方税法六〇三条の二によつて特別土地保有税を免除されるためには当該土地の利用がもはや社会通念上最終需要に供されているものであれば足り、将来の投機的な売買に備え仮の利用に供しているに過ぎないものでない限り原則として免除対象とすべきであり、工場やビルの建設については通常一年以上かかることからすれば、このような場合にも上物が完成していないと免除を認めないとすることは余りにも厳格にすぎ、恒久的な利用に供する建物、施設等の用地として利用されることが客観的、外形的に確実と認められる段階に達していればその対象に含めるべきである。しかも、本件建物程度の規模の建築を行う際は、公告前の建築承認を得るなどの手段をとつていわゆる突貫工事を行つたとしても開発許可を得てから建方までは六箇月以上を要するのであり、画一的に基準日あるいはこれにごく近接する時期までに建築が完了していなければならないとする被告の見解は、大規模な建築の実情を無視するもので誤つているという他はない。

4  同4の事実は認める。しかしながら、原告は建物の建築に先立つて昭和五五年七月中に本件土地上に盛土を行いプレハブ造の現場事務所を設置している。

5  同5の事実中、原告が免除認定申請を行つたこと、同年八月二七日の時点において建物が存在しなかつたことは認めるが、その余の事実は知らない。しかしながら、原告は同年八月中に建物建築のための丁張りを行い、棚渠工事を完了した。

6  同6の事実中、原告が整地のための工事に着工したのは昭和五五年七月一四日ころであり、基準日である同月一日当時の現況は前所有者と同様田であつたことは認め、原告は昭和五五年九月二六日においても建物の基礎工事に着工していなかつたことは否認し、その余の事実は知らない。原告は昭和五五年九月一〇日から事務棟の基礎工事に着工し、翌一一日捨コンクリートの打設を行い、同月一七日にはベースコンクリートを打設し、同月二四日には基礎の配筋工事を行い、同年一〇月一日には基礎を完成させたのである。

7  同7の事実は知らない。

第三証拠<省略>

理由

一  原告が中小企業等協同組合法に基づき福島県下の日産系自動車デイーラー五社が組合員となつて設立した事業協同組合であることは、証人佐藤春男の証言によりこれを認めることができ、原告は、全日産系の自動車部品を販売するための倉庫、事務所、油庫を建築する目的で(右目的の点は被告が明らかに争わないので自白したものとみなす。)、昭和五五年五月一三日、訴外郡山市農業協同組合及び同安斎平吉から本件土地(合計面積九五三〇平方メートル)を合計金二億八九二六万六九〇〇円で取得したこと、原告は本件土地の取得につき地方税法(以下法という)五八五条以下の規定により金八〇三万〇一〇〇円の特別土地保有税を納付する義務があるが、同法六〇三条の二の規定によると右納税義務は免除されるべきものであるとして、原告が、法定納期限(昭和五五年八月三一日)の前である同年八月二九日、被告に対し右納税義務の免除申請をなしたところ、被告は同年一〇月七日付第五四号をもつて右免除申請を否認したこと、そこで更に原告は同年一一月一〇日被告に対し右免除否認決定について異議申し立てを行なつたが、被告は、昭和五六年一月二三日、右異議申し立てを棄却する旨の決定をなし、同月二五日、原告にこれを通知したことは当事者間に争いがない。

二  原告は被告のなした右免除否認決定は違法であると主張するので以下この点について判断する。

1  昭和五三年法律第九号による地方税の一部を改正する法律により設けられた特別土地保有税の納税義務の免除の制度は、土地の投機的な取得を抑制し、地価の安定を図ることを主たる目的として政策的に創設された特別土地保有税について、構造、利用状況等からみて恒久的な利用に供される建物又は構築物の敷地となつている土地についてはこれを免除することとして(法六〇三条の二第一項第一号、同法施行令五四条の四七第一項)、課税の合理性を図つたものであるところ、右制度の趣旨、法六〇三条の二第一項第一号の文言及び免除認定の技術的困難性(後記4参照)などを総合勘案すると、右免除制度の対象となる土地は、基準日(法六〇三条の二第五項、五八六条四項、五九九条一項二号、三号)において、当該土地利用の現況から外形的、客観的にみて、恒久的な建物又は構築物の敷地として利用され、最終的な需要に供されていると認められるものをいうと解するのが相当である。

なお、昭和五三年四月一日付自治固第三八号各道府県総務部長、東京都総務・主税局長あて自治省税務局長通達「恒久的な建物、施設等の用に供する土地に係る特別土地保有税納税義務の免除の取扱いについて」(甲第一号証)によると、免除認定の基準日に関して、「……基準日現在の一時的な現況のみによつて免除の認定をすべきものではなく、当該基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況を勘案して行うべきである。従つて建設途中のものであつても、既に棟上げを終え建物としての外観を示す程度に至つていると認められる場合及び工事の施行が相当程度進捗していると認められる場合は、免除対象に含めて取り扱つて差し支えないものである。」としているが、右は前記法条の解釈に副うものと解される。

2  ところで、成立に争いのない甲第三ないし第九号証、第一二ないし第一五号証、第一七ないし第二二号証、第二五号証、第二九号証、乙第六号証の一、第一二号証、証人佐藤春男の証言により成立の認められる甲第一六号証、第二三、第二四号証、証人伊野光宏の証言により成立の認められる甲第二七号証の一ないし一〇二(但し、同号証の一一は欠番)、証人鈴木博の証言により成立の認められる乙第五号証、第七、第八号証、第一〇号証の一、二、昭和五五年八月二七日に本件土地を撮影した写真であることに争いのない乙第六号証の二ないし一七、同年九月二六日に本件土地を撮影した写真であることに争いのない乙第九号証の一ないし七、本件土地の写真であることに争いがなく、証人伊野光宏の証言により右撮影年月日は同年七月一日ないし同年一二月二八日までであることが認められる甲第二六号証の一ないし四二、証人佐藤春男、同伊野光宏、同鈴木博の各証言によると、原告は、本件土地を倉庫、事務所、油庫を建築する目的で取得したものであるところ、右取得日前である昭和五五年二月二〇日に被告及び建設省所管国有財産部局長に対し都市計画法三二条に基づく同意願を提出するとともに、安積疎水土地改良区に対し排水放水等許可申請をなし、同年三月四日に建設省所管国有財産部局長の右同意を、同月五日に安積疎水土地改良区の右許可を、同月六日に被告の右同意をそれぞれ得、続いて同月一八日に被告に対し都市計画法二九条に基づく開発行為の許可申請をなし、同月二八日に右許可を得、同年四月一一日に福島県知事に対し農地法五条に基づく農地転用の届出をなし、同月二八日に受理通知を得て本件土地を本件建物の敷地として利用できることとなり、同年六月六日には右建物の設計が完成し、その後行政指導による右設計の一部変更を行なうなどしたが、同年七月一日には訴外佐藤工業株式会社と土地造成並びに建物建築請負契約を締結するに至り、直ちに造成工事にとりかかつたが、本件土地は葦の茂つた休耕田で泥沼となつており、同月一日には草刈りだけが行われ、その後も同年夏は天候が不順であつたこともあつて本件土地の水抜き工事に手間どり、同月五日には本件土地上にプレハブの現場事務所を設けたものの、七月中の工事の出来高としては何もなく、同月三一日に本件土地上に工事関係の車両を入れるための搬入路を設けたが、本件土地の盛土及び整地を終えたのは同年八月二二日ころで、この間、同月一九日に被告に対し都市計画法三七条一項に基づく工事完了公告前の建築承認申請をなすとともに、郡山市に対し建築確認申請をなし、同月二一日に公告前の建築承認を、同月二九日に建築確認通知をそれぞれ得て、同日、杭打ち工事に着手し、同年九月一九日には鉄筋工事にとりかかり、棟上げ工事は同年一〇月二日から始め、同年一二月二〇日に本件建物を完成させ、同月二三日に消防法一七条に基づく消防用設備等の検査を受け、昭和五六年一月一三日に公共用施設に関する工事の検査並びに開発行為に関する工事の検査を受け、同月二三日には工事完了検査を受け、合格したこと、他方、被告は、原告から昭和五五年八月二九日付をもつて特別土地保有税の納税義務の免除申請がなされる半月くらい前から原告からの相談を受けていたため、同月二七日に、郡山市財政部資産課の職員が、なるべく本件申請の基準日である同年七月一日(地方税法六〇三条の二第五項、五八六条四項)に近い時点での本件土地の現況を確認する意味もあつて本件土地に赴き、現況を調査したところ、右八月二七日現在、本件土地は整地中で、右土地上には何ら構築物等の工事はなされておらず、現場の工事担当者から同年七月一日の現況を聴取したところ前所有者と同様の休耕田の状況であつたとの回答を得たこと、右職員は、右調査結果に基づき同年九月一六日には福島県総務部地方税課税制係に協議に赴き、また翌一七日には自治省税務局固定資産税課に赴いて協議したところ同課の自治事務官から本件免除申請については否定的な回答を得たこと、更に、同月二二日、本件免除申請を審議するために郡山市特別土地保有税審議会が開催され、事務局から同年八月二七日の本件土地の右調査結果などが報告されたが、右審議会としては慎重を期するため委員全員で本件土地の現地調査に赴いたが、右九月二二日の時点でも本件土地上には棟上げ工事などは行なわれておらず、現場で、工事現場監督人から同年七月一日の本件土地の現況を聴取したところ休耕田であつたとの回答を得、右審議会は、九月二二日、委員の全員一致で、同年七月一日現在において建物等は建築されていなかつたことを理由として本件免除申請を否認する旨決議し、右決議に基づいて、被告は原告の本件免除申請を否認する旨の決定をなしたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

3  以上の事実によると、原告の本件免除申請における基準日である昭和五五年七月一日の本件土地の現況は休耕田で更地の状況にあり、右基準日から約三か月を経過した同年九月二二日においても、未だ本件土地の建物の棟上げにも至つていなかつたものであるから、前記1説示の法六〇三条の二第一項一号の法意からして本件土地はその基準日において免除対象となる土地には該当しないものというべく、被告が前記のように基準日から約三箇月を経過した右九月二二日の状況をも実地に見分するなどして慎重な調査を経たうえでなした本件免除否認の決定は違法とは認められない。

4  原告は本件土地の如き広大な面積の土地に本件建物の如き恒久的な建物を建築するには相当長期間を要し、本件基準日において、被告主張の如き建物を建築することは到底不可能であるから、これを比較的小規模な土地建物と同視し、原告の本件免除申請を否認した被告の本件決定は不公正である旨主張するが、前記1のように、法は当該土地が既に最終の需要に供されているか否かについては必ずしもその認定が容易でないところから当該土地の利用状況から外形的客観的に判断すべきものと定めているものと解され、又そもそも、特別土地保有税は、当該土地の取得者において、基準日である七月一日又は一月一日に過去一年間の土地の取得面積の合計及び税額を算出したうえで申告する申告税とされており、本件土地の取得については昭和五五年七月一日又は昭和五六年一月一日のいずれをも基準日とする納税申告が可能で、右納税義務の免除の申請もこれに合わせてなすものであるから(法六〇三条の二第五項、五八六条四項、五九九条一項二号、三号)、本制度のあり方が、大規模な建築をなす者にとつてことさら公正を欠く結果をもたらすものともいえないから、右原告の主張も理由がない。

三  よつて、その余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求は理由がないので、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤一男 鈴木敏之 金子順一)

別紙不動産目録、土地取得並びに建物建築経過表<省略>

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